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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)4389号 判決

富士銀行

理由

被告は、原告主張の定期預金(一)、(二)には被告が大同交易に対して有する債権の担保として質権の設定がなされていたもので、これは千代田交易にすでに支払つた部分を除き、すべてその質権の実行によつて消滅していると主張するので、この点について検討する。

先ず、被告が、大同交易との間で昭和二十六年二月六日手形取引契約を締結し、大同交易が右契約に基き被告に対し手形割引の方法で別紙第一目録(省略)記載の番号一ないし一〇、一二、一三の計十二通の約束手形を何れも拒絶証書作成義務を免除して裏書譲渡したこと、被告が大同交易との間で昭和三十三年五月一日支払承諾契約を締結し、被告がこの契約に基き同年七月一日武田薬品との間で大同交易が武田薬品に対し負担する現在及び将来の買掛金債務を金三百五十万円を限度として連帯保証し、一方大同交易が、昭和三十四年四月一日被告に対し、被告がその保証債務を履行した場合に大同交易が負担する求償債務履行のために別紙第一目録記載の番号一一の約束手形を振り出したことは、当事者間に争いがない。

そこで、質権設定の有無について判断するのに、証拠を併せ考えると、大同交易は、右手形取引契約に基く一切の債務及び右支払承諾契約に基く一切の債務等、大同交易が被告に対し現在及び将来において負担するすべての債務を担保するため、被告に対し、定期預金(一)につき昭和三十三年十一月二十六日質権を設定し、その担保差入証に同月二十九日確定日付を付し、定期預金(二)につき昭和三十四年六月二十五日質権を設定し、同月三十日確定日付を付したこと、右各債務の不履行あるときは、通知又は催告を要しないで、定期預金(一)、(二)の元利金と任意に相殺し、あるいは、その元利金を任意に処分又は取立のうえ、債務の弁済に充当し得る約定であつたことが認められる。

次に、右質権の実行の経過について判断するのに、証拠を綜合すると、被告は、別紙第一目録記載の番号一ないし六の各手形をその満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、すべてその支払を拒絶されたこと、前記支払承諾契約に基く被告の武田薬品に対する保証契約は昭和三十三年七月一日から三カ月毎に更新され、昭和三十四年九月三十日まで継続し、被告は右期間内に発生した大同交易の武田薬品に対する買掛金債務を保証したものであるところ、被告は昭和三十四年九月三十日武田薬品に対し、右保証債務金三百五十万円を代位弁済して大同交易に対し右金額の求償債権を取得し、同日、前記番号一一の白地手形に大同交易から与えられた補充権を行使して支払期日を昭和三十四年九月三十日と補充のうえ、支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたこと、前記手形取引契約の条項として、借主が被告に対し負担する債務のうち一つでも履行を怠つたとき、仮差押等の申立があつたとき、手形交換所の不渡処分を受けたとき等、その他債務の履行ができない虞があると被告が認めた場合には、借主は、満期の到来していない手形についても即時買戻の責を負う、と約定されていたこと、大同交易は、昭和三十四年六月三十日手形の不渡を出したのを始めとして、右各手形の不渡等支払不能の状況にあつたため、遅くとも同年九月末日までに右特約に基き満期未到来の別紙第一目録記載の番号七ないし一〇の各手形につき大同交易はその買戻の責を負うに至つたこと、それにもかかわらず、大同交易は、いずれもその支払義務、遡及義務または買戻義務の履行をしなかつたので、被告は、別紙第二目録記載のとおり、定期預金(一)、(二)、につきその主張の質権の実行をなしたこと、すなわち、同一ないし六、一一の手形については手形金及びこれに対する満期の翌日から手形取引契約による日歩五銭の割合による損害金の支払を受け、七ないし一〇の手形については手形金から質権実行の翌日より満期までの戻割引料を控除した金額の支払を受け、一二、一三の手形については、同年七月一日から同年八月四日までの日歩二銭五厘の割合による約定未払損害金を同年十月二日その質権の実行により支払を受け、また、前記支払承諾契約に基き前記保証につき大同交易が被告に対し負担する未払保証料金九千六百六十円を昭和三十四年九月三十日その質権の実行により支払を受け、結局被告は、定期預金(二)の全額及び(一)の内金六百五十三万七千六百四十八円の合計金九百十三万七千六百四十八円を債権の実行として支払を受け、残額金四十六万二千三百五十二円及び右金員に対し差押取立命令送達日以降日歩七厘の割合による利息を付加して合計金四十六万二千九百三十四円を千代田交易に支払い、定期預金(一)、(二)は消滅したものである事実を認めることができる。

ところで、前記手形割引によつて大同交易が手形金相当額の借入金債務をも負担するに至つたか否かの判断はさておき、将来発生する債権を被担保債権とする債権も有効に成立し得るのであるから、確定日付ある質権設定通知のある場合には、第三者が、その後被担保債権の発生前に担保債権に対する仮差押をしても、質権実行の際に被担保債権が発生していれば、質権者は、その仮差押債権者に優先して担保債権から弁済を受けることができるのはいうまでもない。しかるに、本件においては、前記認定のとおり担保差入証に確定日付が付され、別紙第二目録記載の各質権実行当時、いずれも被担保債権は存在していたのであるから、原告主張の二回に亘る仮差押は、これに先行してはいるが、被告は、これに優先して質権の実行をなし得たものということができる。

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は理由がない。

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